労働審判(労働審判制度)とは、
労働関係の紛争について、
裁判官と労使の専門委員で構成される労働審判委員会が、事件の審理を行い、
調停(調停とは、労働審判委員会を仲裁者として、会社と個人が話し合いをすることです。)を試みて、
調停で合意が成立すればそれで解決し、
調停が不成立の場合には、審判(ここでいう審判とは、裁判の判決に相当するものです。)にて解決する手続です。
第1 手続の概要
まず、地方裁判所に労働審判の申立をします。
申立をすると、3回以内の期日で、労働審判委員会が、事件の審理を行います。
この3回以内の期日の間に、審理の状況を踏まえながら、調停が試みられます。
この調停でうまく会社と労働者の双方が納得し、合意が出来れば、その合意により解決します。
他方、調停がうまくいかなければ、審判といって、通常の裁判でいうところの判決が出ます。
この審判結果に不服があれば審判が出てから2週間以内に「審判に不服であるので、異議を申し立てる」旨を記載した書面を裁判所に提出します(FAX送信不可)。
この書面の提出(異議申立)があれば、改めて裁判になり、審判どおりの効果は生じません(裁判の判決により、決着がつくことになります。)。
他方で、審判の内容に双方異議がなければ、確定し、審判どおりの効果が生じます。
第2 対象事件
原則として個人の会社に対する労働問題が対象になります。
このため、組合と会社の労働問題、あるいは、会社の同僚間の問題のような個人間の問題については対象外となります。
特に気をつけていただきたいのが、会社の上司によるセクハラ、パワハラ問題で、『その上司を相手に』労働問題として争う場合は、対象外という点です。
ただし、上記のような会社の上司によるセクハラ、パワハラ問題で『会社だけを相手に』労働問題として争う場合は、個人対会社の問題となりますので、対象範囲内になります。
また、このような『会社だけを相手に』労働問題として争う際に、その上司を利害関係人として(あくまで利害関係のある第三者であって、直接の当事者とはしていないことがポイントです。)参加させることは可能です。
そして、利害関係人として参加させた第三者も含めた調停による合意をすることは可能なので、調停による合意が出来るのであれば、(審判の対象はあくまで会社だけですが、実際には)上司と会社、両方を相手にした損害賠償の合意等の関係者一挙解決の合意が可能なのです。
もっとも、あくまで、審判の対象は会社だけなので、調停がうまくいかない場合、上司に対する審判はなく、会社に対してしか審判は出ません。
すなわち、労働審判では、上司によるセクハラ、パワハラ問題では、会社だけを相手に労働審判をする必要があるけれども、調停で合意できるのであれば上司や会社との間の一挙解決が出来ます。ただし、調停で合意できないのであれば、会社を相手にしただけの審判(判決に相当するもの)しかもらえません。